ねぇえ、私ね。
もし、もしね。また貴方が先に死んでしまって。
それで、その何年かあとに私が死んでしまったらね。
閻魔様に言うの。
もし、もし私が天国行きだと仰せつかっても。
だってほら、私ってばとても美人で素敵で、天才で。
ドコをとってもいいトコだらけじゃない。
非の打ち所も無いわ。
何よそのぶんぶくれた顔は。ちょっと!
聞いてるの。鼻で笑わないで頂戴よ、鼻息が荒いのよ!
痛っ!おでこを叩かないで、貴方ほど広くないのよ。
うそ、ウソウソウソよ!だからすねないで頂戴。
あら、話を戻すわね。
それで、閻魔様が何がどうあっても私を天国に。
と言ってもね、私は。
私はね。地獄へ送ってもらうように頼むわ。
貴方と、死んだ後も離れ離れなんて、耐え切れないわ。
王子様。
どうか、どうか私から。いいえ、私を離さないで頂戴。
私は、私はね。
貴方の傍に、いたいのよ。
だから、死んだらね。閻魔様に、地獄へ送ってもらうのよ。
何、泣いているの?



――――――
ベジータは、何も身に纏わずに、己に身を摺り寄せてくる妻の独白を、ただじっと聞いていた。
そのうち、同じく何も身に纏っていないわが身が、寒さから来る物ではないものに打ち震えていることに気が付いた。
熱いものが、こみ上げた。
目頭がムズムズし、視界が唐突に歪んだ。
頬を、伝う液体が鼻に入り、息が詰まる。
構わずにベジータの腰に足を絡めるブルマに、向き合って彼は愛する妻を包み込んで言った。
「あの苦しみを背負うのは、俺一人で充分だ」
数々の罪の無い命を奪い、葬ってきた遠い宇宙からやって来た王子は。
己の手に残る命の消え去る瞬間の感覚を、思い出しながら。
震えながら、泣きながら。
小さく小さく呟いた。
「悲しくさせないでくれ」




――――――        
分かってるわよ。
貴方が。人々を殺してきたことを。
後悔しているくらい。
その、形の良い唇で、数々の人々の骨を。
砕いてきたことくらい。
私も地獄にいくべきだわ。
だって、貴方を。
愛してしまったから。
それすら、罪になるわ。