ねぇ、パパ、と彼の愛娘のブラがベジータのすそを引っ張れば。
ベジータは優しい笑顔でブラの頭を撫でて、何だ、と問う。
その瞳は愛に溢れて、全盛期の彼を知る者を驚かせることだろう。
ブラは、そんな父親が大好きで、だが唯一つ不思議なことがあって尋ねたのだ。
母親のブルマは、昔孫悟空という人と旅をしてドラゴンボールを見つけたのだという。
父親とは、そのドラゴンボールを探している途中で遠い遠い宇宙の星で出会ったのだという。
ブラはその大きな瞳を輝かせて、父親と母親の恋物語を想像して胸を躍らせていた。
だが、そこで出会った父は、とんでもない悪者だったと、母は言う。
どんな風に悪い人だったの、と問うてもブルマは哀しく微笑んで何も言わなかった。
母が答えてくれないのならば、父親に聞けばいい。
子供ながらの安直な方法だったが、しかしブラはそれで全てが解決すると思っていたのだ。
現に今までがそうだったのだから。
「パパは、ママと会う前は、どんなことしていたの?」
一瞬、きょとんとしたベジータは、ブラの頭を撫でながら眉を顰めた。
過去に想いを馳せば、一体自分は何をしているわけでもなく。
ただいけ好かない侵略者のいいなりになって星々を破壊して、それをまた異星人に売りさばくという。
地上げをしていたと、言ってしまえばいいのかと。
口を開きかけたとき、まてよ。とまた口を閉じた。
そんな父を見て、ブラは首をかしげる。
父の顔がどんどんと悲しそうになるからだ。
だからブラは、ごめんなさい、と謝った。
ベジータは、娘をそっと包み込んで何も謝ることはない、と更に優しく頭を撫でた。
そうしているうちに、ブラはベジータの腕の中で寝息を立ててしまい、そんな娘をたまらなく愛しく想いながら彼は。
娘を寝室へと抱いていった。


――――――
言ってしまえば良かったのかもしれない。
俺は何の罪のない人たちをためらいもなく殺してきたのだと。
だが恐かった。
娘に恐怖され、嫌われるのがとても嫌だった。
恐かった。
だから俺は開きかけた口を閉じたのだ。
忘れてしまえよ、ブラ。
俺が昔何をしていたのかと。
聞いてしまったことを、夢見ているうちに忘れてしまえよ、ブラ。
ああ、お前の記憶の一部を粉々に握りつぶしてしまえればどんなにか楽だっただろうな。