例えば、俺は深く深く寝入っていたとする。
そして、お前も俺の隣で寝ているんだ。
お前は、しっかりと俺が寝たのかを、上下する胸で、吐き出される息で。
しっかりと確認するんだ。
そして、ホテルのダブルのベッド脇に備え付けてある小机のライトを着けて、俺の隣から抜け出る。
軽く、シャワーを浴びて、シルクの肌着を身に着ける。
またベッドに入って小一時間。
お前はなにやら机の引き出しを、そっと音を立てないようにして開ける。
ごくごく小さなギシっと引き出しが軋む音でさえお前は身体をびくりと震わせて俺をそっと見る。
それでも、俺はまだ起きない。
すっかり安心しきっているからだ。
当たり前だろう、一緒に寝ているのがお前なんだから。
起きない俺を見て、お前はほっと溜息をつき胸を撫で下ろす。
そして、引き出しから出したそれは不気味なほど綺麗なナイフを見て微笑む。
ナイフに映った赤く彩られた唇を歪めて妖艶に哂い、お前は俺の胸に手を這わせる。
そっと、そっと。
ナイフをもった手を振りかざして。
何の迷いもなく俺の胸にめがけて、突き刺すのだ。
ただじゃ死なない俺だ。
きっとその衝撃で起きだして目ん玉をかっぴらいてお前を凝視するのだろう。
何故だ、と唇を震わせて。
お前は答える。
貴方の血は、私と一緒で赤いのかと不思議に思って。
とても、綺麗ねと。
いとおしそうに噴出した血を手に取り、うっとりと眺めるのだ。
その美しい笑顔を見て、俺はきっと妙に納得して。
そうか、と一言呟いてまた寝入ってしまうのだろう。
二度とお前の美しい笑顔を見れないと知りながら。